歴史観 Ⅱ  Historical View Ⅱ

(言いたきこといわぬは肚ふくるるわざにて、心に思う所を少しく述べてみよう。)

 マルクスは労働搾取を、労働者が生産した価値の上前をはねて横取りすることと考えた。労働者が生産した価値は製品の価格に表現され、その価格は生産に要した労働時間量の多寡によって決まる。労働者の給料は労働者の生産費、詰り労働者が生きていくのに必要な衣食住の価格であり、それは労働者が工場で働いて生み出した価値、詰り労働者の就業時間に相当する商品の価格より少ない。労働者は自分が生み出した価値より少ない価値に相当する給料しか受け取らない。その差額は工場の所有者、資本家の手に入る。これがマルクスの言う資本主義経済の労働搾取である。ここから生産手段の私的所有を廃して、資本家の個人的利益の為に労働者が必要以上に働かされることを止めれば、暮らし易い社会が作れるということになる。この発想が共産主義の原点である。

 しかし実際には、需要と供給の釣り合う所に商品の価格は決まる。(これを需要供給の原理と言っておこう。) そこでは生産に必要な労働時間の量は係わりが無い。労働者の生活費に合わせて価格が決まる訳ではない。多くの時間を掛けて作った物でも、需要が少なければ高値は付かない。労働力の価格、詰り給料も需要供給の原理で決まる。特殊な職能に対する需要があり、それを供給すべき労働者が少なければ、その給料は高く成る。但し、決まった価格で労働者の生活費を賄えなければ、その生産物は商品としては売りに出せないということになる。(実際には、状況に合わせて原理に調整を加える。)

 抑々、需要の無いものは生産されない。需要と供給の発生順序は、需要が先で供給が後である。需要が供給を牽引しながら経済は発展して来た。発展途上の国では需要より供給が課題になるが、先ず生きるに不可欠な物に対する需要が有るのは当然である。人や資源を計画的に配分し効率良く豊かな社会を実現する為、発展途上国では統制経済が有効に働く。しかしそれはあくまで発展途上という条件付きである。経済が発展し生活必需品の供給が確保された後には、統制経済は逆に経済発展を阻害する。需要は人の発想から生まれるが、統制経済は自由な発想に制限を加え、新たな需要を枯渇させる。新たな需要に応ずるはずの創意工夫が発揮されず、経済発展の動機が生まれない。統制経済の発展には限界がある。

 他方、自由主義経済に問題が無い訳ではない。自由主義経済とは、自由な発想が需要を生み出す経済体制である。当然ながら、それは何をやっても許される経済体制ではない。自由主義経済は市場経済の根本原理である需要供給の原理の上に成り立つ。この原理から競争原理が派生する。ある物への需要が一定として、供給の仕方が改良され生産費が減ると価格は変わる。これが競争を生む訳である。科学技術は生産費を削減し、競争原理と手を結んで独占を生み出す。事業に資金を投資して、それを運用して利益を生み出し、更にその利益を投資に回して富を増やして行く。これが資本主義経済の基本的な運動方式である。科学技術の進歩と競争原理が相乗効果を発揮して、現代の資本主義社会を創り出して来た。ここまでは起こるべくして起こった結果である。しかしこれで理想社会の実現という訳にはいかない。

 私達は、確かに物質的豊さを手に入れたが、心は豊かに成っただろうか。経済は物の交換から始まった。互いに欲しいものを受け渡しする。欲しくない物は交換しない。ここでは互いに相手の利己心を認め合っている訳である。競争原理はこの利己心を駆って、欲を増長させ、その欲を我慾に至らしめる。しかしこの我慾は桎梏である。心は勝つことに縛られ、負けることへの不安にさいなまれる。多発多様化する犯罪を見ると、気付かぬ中に心の深い所で意識の崩壊が進行しているのかも知れない。これは多くの人が気付いていることだろう。しかしその解決法が分からない。市場経済に則って資本主義経済体制を転換できるのだろうか。

 とは言え、こうは言えるだろう。人類は思いを賭けて多くの悲惨を演じ、それらを貫いて経済文化を発展させて来た。その経験から、私達は自らを我慾から解放する知恵を学ばねばならない。呼吸合気がその一助になることを望む。

Historical View Ⅱ

Have we indeed attained material abundance, but have our mind becomes rich? The principle of competition drives selfishness to increase greed. But greed grips mind tightly. The mind is bound to win and the anxiety of loosing corners the mind. Looking at the multi-diversification of crime, it may be thought that consciousness is collapsing deep in the mind without beeing noticed. I am sure many people are aware of this. But we do not know how to solve it. Can the capitalist economic system be transformed according to the market economy?
However, I can say that, humanity has developed its economy and culture by repeating trial and error based on various kinds of emotin, and by acting out many tragedies driven by greed. From thouse experiences, we should learn the wisdom to liberate ourselves from greed. I hope Kokyuu Aiki will help us to get it.