横隔膜を活用した『静坐の呼吸法』
( 「気付きを開く呼吸法」の続き )
「気付きを開く呼吸法」は呼吸の掃除。呼吸の汚れを吐き出し呼吸をきれいにしようとするもの。次に行ることは呼吸を安定させる、心の安定を得ること。その為に行うのが「静坐の呼吸法」。この呼吸法の要点は、横隔膜を十分に使うこと。前の投稿で述べたように、横隔膜の下にある太陽神経叢の働きを整え、自律神経が安定するようにすることである。
「気付きを開く呼吸法」は汚れを吐き出す為に息を口から吐いたが、「静坐の呼吸法」では吐くのも吸うのも鼻から行う。横隔膜を使うということは、詰まり息を吐く時に横隔膜を締めて押し下げるということである。その為には鼻から息を出す方が行り易いようである。口から「ハァー」と息を吐くと横隔膜は締まらないようだ。「ア」という音は呼吸を開く音で、「アー」と発声する時には横隔膜が締まらないようである。(ご自分で試してみてください)。そこで肋骨を下げて腹の息を吐くには、肋骨を下に引き下げるのではなく、上体を前へ屈めて肋骨を上から下ろすことになる。これが「気付きを開く呼吸法」の行り方で、息を吐く時最後に上体を屈めることになる。対して、鼻から息を吐く時には、横隔膜を締めて肋骨を引き下げることが出来て、姿勢を崩さずに腹の息を吐くことが出来る。こういう訳で、鼻から息を吐くと、腰肚を締めて姿勢を維持しながら、吐く位置を順次上体から下ろして行き腹部の息まで吐くことが出来る。上体を楽にしてゆっくりと腰肚を締めながら息を吐いて行くと、おのずから横隔膜が締まって来て肋骨が引き下げられ、肚の息まで吐くことが出来る。その時視線は自然と下方少し前に向く。
息を吸う時は、腰の構えを維持しながら横隔膜を緩める。おのずから肚から胸、肩へと息が入って来る。更に頭部まで息が満ちて来ると意識してみよう。そしてそのまま少し間をおいて、また鼻から静かに吐いて行く。これが「静坐の呼吸法」である。
やり方としては「静坐の呼吸法」と「気付きを開く呼吸法」はほぼ同じであるが、吐くのを口からではなく鼻からに変える。また「気付きを開く呼吸法」では身体の動きを伴うが、「静坐の呼吸法」は身体の動きは無い。しかし根本的な違いは横隔膜を積極的に使うことである。そこから呼吸をしている時の心の有様は違って来る。「アー」という音は呼吸を開く音であり、心を開いて汚れを吐き出す時の音である。呼吸の汚れを吐き出し心をきれいにして、その上で心を安定させる。これが「気付きを開く呼吸法」から「静坐の呼吸法」への段取りである。古来、邪念は肚に籠ると感得されて来た。邪念とまでは言わずとも、汚れた念を吐き出して心を清浄にし、そのきれいな心を安定させようとする訳である。「気付きを開く呼吸法」では文字通り心が拡がって行くような印象を得るが、「静坐の呼吸法」を行っていると静かな落ち着きを身体の中に感じるだろう。この呼吸法をしながら静かに座るのが「静坐法」ということになる。
しかし、静坐法は瞑想法ではない。瞑想は高い次元の智恵に意識を同調させようとするのだろうが、それは専門の宗教者に任せよう。日常生活の中で、我知らず与えられる「気付き」を逃さず受け取れるように、心の安定を維持する。それが静坐法である。そしてその要が横隔膜を使った呼吸法である。
