一つの歴史観 A View of History
社会を作るには分業が必要である。先ず農業生産の技術が発達し、それに相応した貴族制、封建制等の分業体制が出来上がる。貨幣が生み出され、科学技術が発達し、工業生産が為されるようになり、流通手段も発達し、分業体制が変遷して行く。資本主義経済はこうして出来てきた。分業体制そのものは善でも悪でもない。それは生産技術に見合った効率的な政治経済の仕組みである。その分業体制に物慾、支配慾が働き、搾取が生ずる。暴力によって身分の上下関係が確定し、階級の対立と成る。この階級の対立が歴史の原動力であるという見方が、唯物史観の基本軸である。但し、唯物的な見方では、分業体制と階級対立が直結する。物慾は階級対立の産物と見る。人間の心理を物的環境から説明しようとするのが唯物論だ。こうして階級対立を無くせば誰もが豊かな富を享受できるということになる。これが共産革命の基本的な考え方である。
実際は、共産革命は階級を廃したが、独裁を結果し、富の配分は不均衡のままであった。詰り、所有の不均衡、搾取は必ずしも階級対立の結果とは言えないのだ。共産体制でも分業は必須で、そこに慾が働き搾取が生まれると考えるべきであろう。人間の欲は階級の産物ではない。
資本主義体制は分業体制の歴史の中から生まれたが、共産主義体制は人間の作為的な作物であり、合理主義的思考の産物である。そこに誤りが有る可能性を自覚すべきである。結局、その自覚を共産主義者の動機、支配慾が妨げ、歴史に大変な不幸を齎した。社会主義諸国のソ連、中国は歴史の進歩を示すのではなく、人間知力の有限性を証明した。
絶対理性が歴史を生み出すという観念論的歴史観に対して、経済が歴史を動かすという歴史観は確かに現実的であり、西洋思想の世界では画期的であったかも知れないが、人間心理の理解が貧弱である。唯物論で心理を説明しようという発想は、自然科学の成功に幻惑された結果だろう。更に言えば、この幻惑の源は、キリスト教に思考の根っこを掴まえられていた中世にまで遡るのかも知れない。唯物史観が叫ばれていた当時、意識の深層に対する理解は、やっとフロイドが潜在意識に気付いたという状況であった。結局、共産革命を唱えた人たちは、思考を、自らの潜在意識にある動機に操られながら、それを自覚せずに唯物史観を宣揚していたのだろう。その動機は強烈な破壊慾と支配慾。大量の粛清はまさに破壊欲の表れであろう。
マルクスの深層意識に、ユダヤ教のメシア思想、選民思想を見る人も居る。そうなのかもしれない。意識は重層構造を成し、動機の下に更のその動機があり、それが続いて行く。
川は海に向かって流れて行く。流れながら蛇行し、滝と成り、或いは池を作る。この流れは根底に於いて重力が作りだしている。歴史を川に譬えれば、重力に相当するのが慾、詰り物欲、支配慾であると私は考える。物的環境が変化するに連れて、慾は色々な事件を生み出して行く。
歴史を根本から転換するには、どうしても私達は、物慾、支配慾などの利己的慾望を治める術を会得する必要がある。何千年もの時を経て、今なお人類はこれを会得していない。戦争の不幸を繰り返している。
人間の利己心を根底に認めながら、殺し合いに成らずに社会を運営して行こうとするのが民主制であり、その上で市場経済が成り立つ。それが資本主義経済の前提である。従って資本主義体制は、利己主義から生ずるいろいろな問題を内包している。今、それらの問題が表に現れ社会を苦しめている。しかしそれを解決する糸口はまだ見えてない。次に来るべき社会はどのような形態なのか、誰にも分かっていない。
その社会では
『汝人に為られんと思う如く、人にも然せよ。』
『己の欲せざる所、人に施す勿れ。』
これが基準になるだろう。
A View of History
The division of labor is indispensable for creating society. First of all, agricultulal production developed technology, and a corresponding division of labor system was established. With the development of science and technology, the birth of industrial production, the system of division changed. That is how capitalistic economies come to be. The division of labor itself is neither good nor evil. It is an efficient political economy system commensurate with technology. Class conflict is born in this division of labor due to greed. This class conflict is the underlying driving force moving history. This is the basic view of materialistic history. However, from the materialistic view of history, the division of labor and class conflict are directly linked. The human desire is regarded as a product of class conflict. It tries to understand human psychology from material. Then, if class conflicts are eliminated, everyone can enjoy rich wealth equally. This is the basic idea of the Communist Revolution. But in reality, revolution resulted in dictatorship and did not change the imbalance in the distribution of wealth. That is, it is not true that the imbalance and exploitation are the result of only class conflict. Even in the communist system, the division of labor is essential, and exploitation occours from it. Greed is not a product of class. Class is conversely a product of greed.
The capitalistic division of labor emerged from history, but the communist system is a man-made crop and the product of rationalistic thinking. We should be aware of the possibility that there may be error. In the end, desire for greed and power brought great misfortune to history without one’s awereness of it. I think that the dsire basically moves history.
Since thousans years before, human beings have been repeating the misfortune of war. In order to fundmentally change history, it should be necessary to master to control selfish desire.