日常生活の呼吸
日常生活の中の呼吸について、あらためて考えてみよう。
姿勢の要は、腰(仙骨)を両横から止める。そうすると背骨はおのずから立ち上がる。この腰の構えを維持しながら股関節を軸に身体を動かす。これが身体の使い方の基本である。呼吸は、この腰の構えを維持しながら息を吐き吸う。
ところで、私達は普段いろいろな気遣いをしながら生活している。その中で緊張して体を縮めてしまう。その時呼吸も縮む。この縮んだ呼吸を伸ばして元に戻すのが呼吸法である。仕事に疲れて体を伸ばすと気力が回復するように、深呼吸すると気分が晴れる。呼吸法をひとしきりやると清々しさを覚える。これが日常生活の中で取り組む呼吸法が目指すところである。呼吸法は、いわば呼吸の柔軟体操である。だから、呼吸の長さや強さに拘って、力を込め呼吸を滞らせるのは、かえって呼吸法の本筋から外れることになる。
呼吸法のやり方の概要を述べよう。腰の構えを確認してから、先ず大きく息を吸って、それから吐き始める。軽く口を開けて静かに口から吐く。その時、喉の所で軽く「ハァー」という音がする。(「ハァー」と声を出して言う訳ではない)。腰の構えを維持しながら、力を込めず楽に肩の息から胸、それから腹の息と吐いて行き、最後に股関節の所で身体が少し前に屈み顔が俯く。次に口を閉じてゆっくりと静かに鼻から息を入れて行く。初めは鼻で「スゥー」という音がする。息が入って来るに連れて屈んだ身体が起き、更に胸から肩へ息を吸い入れて来て、最後に顔が少し仰向く。そしてまた静かに息を吐いて行く。
生活の中で普段行われるべき呼吸は滞りのない呼吸であろう。詰まり心に滞りのない生活である。生活の中で私達はいろいろと気遣いをする。この気遣いは身体を縮め、呼吸に滞りを来たす。しかし気遣いをしない生活などできない訳だから、結局、滞らない呼吸をしながら気遣いをできねばならない。滞らない呼吸というのは、腰の構えを維持しながら力を籠めずに楽に息をする呼吸である。この呼吸を会得するための稽古法が「呼吸の体操」である。
(体操のやり方については、このホームページの 「呼吸の体操・呼吸法」 https://kokyuuaiki-sagami.org/tech4 を参照してください)。
体操そのものは簡単であるが、呼吸と体(腕、腰、膝)の動きの順を間違わないことが重要である。呼吸が先で身体はその後、呼吸が身体を動かすということだ。これは呼吸合気の基本原理である。この体操は、剣を持てば素振りとなり、斧ならば薪割り、また鍬を持てば畑の土起こしになる。昔は生活の中に呼吸の稽古が有った。しかし今は日常生活が手軽になり、普段の呼吸は浅い。心が浅薄になっていないか。
技の稽古は、いろいろな人間関係の中で滞らない呼吸を維持しながら生きていく稽古と言えるだろう。人生はいろいろな人間関係の連続である。滞らない呼吸を身に着ければ、人生を支える大きな力となるだろう。
付記
呼吸の体操に基本的な技の動きを加えれば、合気の一人稽古になる。正面打ち呼吸投げは身体の前後の動きと回転をしながら腕を上下にする。この動きに呼吸の体操の呼吸を組み合わせる。同じように、胸突き小手返し、肩取り一教 などの技も一人稽古ができる。