横隔膜と心のつながりを理解する

 心と呼吸を結ぶ重要な働きをするものに横隔膜が有る。内臓を覆って、肺と内臓を隔てる筋肉の幕である。
 一般的には、息を吸う時横隔膜は下がり、吐く時には上がると考えられている。息を吸うと肺が拡がり横隔膜は押し下げられて腹が膨らむ。吐く時には肺が縮小して横隔膜は引き上げられ腹がへこむ。所謂、腹式呼吸である。これに対し肩を上下させて呼吸することもできる。肩を上げて肋骨を引き上げ、肺を上に拡げて息を吸い、肩を下ろして息を吐く。こうすると吸う時には腹部がへこみ吐いて元に戻る。腹部の動きは腹式呼吸と逆になる。この二つの呼吸法では横隔膜は単に膜であり、筋肉としては働いていない。しかし横隔膜を積極的に筋肉として働かせる呼吸法が有る。横隔膜を締めて押し下げて行くとそれに連れて肋骨が引き下げられ、肺が圧縮されて息が出る。横隔膜が下がって腹を圧することになるが、それを下で肚が締まって受け止める。この時腹圧が生じる。こうして腹圧を掛けながら息を吐くことになる。そして腹部を緩めると横隔膜が緩み肋骨が上がって息を吸うことになる。ここで更に肋骨を拡げて行くと腹式呼吸に移行する。
 横隔膜と情動は深く結びついている。不安に脅えている人を描いた「叫び」というムンクの絵が有るが、主人公の姿は肩を上げ口から息を吸い、腹は力なく吊り上がっている。心が動揺すると、肩を上げて息を吸い腹がへこむ。横隔膜の下に太陽神経叢という自律神経の働きに重要な役を果たす神経の集まりがある。横隔膜の力が抜け更に浮き上がってしまうと太陽神経叢がうまく働けず自律神経が乱れてしまうようである。そんな時息を吐きながら横隔膜を下げるような呼吸を何度かやってみると、落ち着きを取り戻せる。別段心が動揺していなくても、息を吐きながら横隔膜を下げるようにして見ると、誰でも心が鎮まるのを体感できるだろう。また、何かで気が塞いでいる時大きく腹式呼吸をすると、息を吸いながら横隔膜が下り、吐きながら肩の力が抜けて、気持ちが楽になる。横隔膜の筋肉を積極的に動かす訳ではないが、横隔膜が心と結び付いていることを示していると考えられる。腹式呼吸のみを見ていると呼吸法を見失う。

 「気付きを開く呼吸法」は呼吸の汚れを吐き出し、気付きを受け取れる人間本来のきれいな心を開こうとする。利己の誘いに乗らず、真実の声を聞き取れるように。
 実際に呼吸法を行う時は想像力を使うと良い。先ず大きな台(うてな)が有り、その上にゆったりと座っている。こう想像しただけで腰が起きて肩の力が抜け、気持ちが落ち着くだろう。下腹部である肚は広い皿でその把手が腰、把手がしっかり皿を支えている。その皿に内臓を載せ、上から落下傘のような形の横隔膜が蓋となって覆っている。息を吐きながら蓋が下がって行き、その圧を下で皿である肚が締まって受け止める。肚が締まるというと皿の周辺が引き絞られると思い込みがちであるが、皿の底も肚であり、底を締めることも忘れてはならない。そうしないと上からの圧力は底から抜けてしまう。底が締まると想像する、そうすると自然に周も締まり把手も確りする。
 このように想像しながら呼吸法を実習すると分かり易いのではないか。呼吸や姿勢に関する筋肉は想像を使うと働き易いようである。

※ ここに述べたことは、私が体で感じたことを基にしています。頭で理解するのではなく体で感じながら読んで頂けると幸いです。