杖を持つ時当たり前のように小指を締める(画像 1)。その時の自分の呼吸を見て欲しい。息を詰めていませんか。肩が固まっていませんか。小指を締めると呼吸力は使えなくなる。ご飯を食べる時、親指、人差し指で箸を挟んで使う(画像 2)。強い力で持っている訳ではないが、しっかりと食べ物を取ることが出来る。ここで誰かが箸を上に抜こうとしても抜けない。肩は固まらず息も詰まっていない。日常何気なくやっていることだが、箸は呼吸力で扱っていると言える。ただしっかり持っていると感じないだけである。

 Aは箸を持つ時の指の形(親指と人差し指)を作りそのまま楽に呼吸している、Bがその指を相当の力で開こうとしても開けない。試してみるとすぐ分かる。杖を持つ時、親指、人差し指、それに中指で持ってみると(画像 3)、呼吸には何の障りもなく肩も固まらずに持てる。(棒の太さによって人差し指、中指、薬指を使う。)これは相手の手首を取る時も同じである。

 人差し指は杖の方向を決める役、前、左右、下、等手首を返す時使う。中指が親指と対で杖を握る役。そして中指は人差し指と対で手首を返す(スナップ)時の支点の役。手首に四教を決める時などに使う。この時握る物の太さによって薬指を補助的に使う。また中指は杖を軸の回りに回転させるときに使う。この時も持つ物の太さによって薬指を添える。小指は、例えば小筆でカナ文字を書く時に腕を支えるようにする。小指は物を握る指ではない。

 小指で杖(剣)をしっかり握ると息は詰められ肩が固まってしまう。しっかり持っているという感覚は得られるが、これでは呼吸と身体がぶつかって動き難い。そこを敢えて動こうと稽古する訳である。小指は円く添えるだけにして、親指と人差し指、中指、(薬指)、で杖を持つと肩は固まらず呼吸は塞がれない。息を吐く、吸うと身体の動きを連動させて呼吸力で杖を扱うことが出来る。(下の「突き方」をみてください。)
 肩取り一教では、差し出される相手の手を取る時、親指と中指で相手の手を上から挟むように軽く取る。そうすると呼吸には支障がなく肩は固まらない。箸を持つ時のように軽く扱うのである。相手の手を下ろす時息を吐き、上げる時息を吸う。次に息を吐きながら相手を下まで下ろす。受け は 投げ の呼吸を追い駆けるようにして 投げ について来ることになる。小指を相手の手に深く掛けようとすると息が詰り、そのまま手を上げながら手首を返すと肩の動きが抑えられてしまう。

 息を詰めて身体を動かすと何かやったような気がする。拳を握り締め、そのまま暫く息を止めてから力を抜いて息を開くと何かやったような感じがする。私はこれを「やった感」と言っている。何かを行うに当たって私達は成果を求める訳だが、成果の前に「やった感」を求めないか。「やった感」があって次に成果が来ると思っている。 「やった感」は息を詰め身体が動かない状態を作り、その上で身体を動かそうとする時に体内に感じる抵抗感である。詰り、呼吸と身体の動きがぶつかっている時の感覚である。身体を動かすには酸素が必要であり、「やった感」は酸素吸入を減らすわけだから望ましいことではない。これでは呼吸力を使えない。呼吸の力で身体を動かすと、呼吸と身体はぶつからないから苦も無く事を行ったように感じ、「やった感」は無い。しかし効率の良い動き方である。
 考える時も同じで、懸命に考えているという「やった感」を求め息を詰めて頭を使おうとするが、それでは酸欠状態で良い考えも浮かばないだろう。「やった感」と「成果」は別のものである。

『 杖の突き方 』

 左手を前、右手を後ろに杖を構える ( 足を踏み換えて、右手を前、左手を後ろに持つ構えも可能である )。一歩踏み出して杖を突き出す。この時、杖を持つ手元の手で突き出す。(画像1)。ここで私達は当たり前のように息を吐く。しかし杖を突き出す時腕は伸びるわけだから、息を吸わねばならない。吐くのは縮む時の呼吸である。最後まで吐いて杖を突き出そうとすると、吐く息が足りずいきおい上体を屈めて吐き出すようになる(画像2)。そうすると体勢を戻す時に息を吸い、更に腕を上げ十分に息を吸って杖を上で構えることになる。しかし息を吸いながら突き込めば戻る時は息を吐くことになり、ここで呼吸は一巡して終わる。腕を上げる必要はない。

 突く時手もとの手で杖を内側に回転させると脇が締まる。脇を締める時は息を吐く。脇が最後まで締まるとそれ以上は息を吐きながら杖を突き出せないことになる(画像1)。だから杖を内側に回転させながら息を吐いて杖を長く突き出すには,上体を屈めなければならなくなる(画像2)。脇が締まるまで杖を出したらそれ以上杖を突き出すには息を吸わねばならない(画像3)。そこで逆に初めから杖を外側に回転させながら突いてみると脇が開き息を吸う動きになる。( 但し、外側に回して突く場合は前の手で突くようになる。そうしないと腕の回転方向と身体の向きが合わなくなる。銃剣を突くような形である。)従って長く杖を突き出すには杖を外側に回転させる方法もあることになる。拳を突き出す時拳は外側に回転させるがそれと同じである。

 腕を突き出す時息を吸い、戻る時息を吐く。「呼吸力」の所で説明したように、腕は息を吸うと伸び、吐くと縮む。呼吸と身体の動きをぶつけると「やった感」は得られるが、それと効果は別である。息を吸いながら相手の身体を押してみれば、息を吸うことと腕を伸ばすことの繋がり、効果が分かるだろう。

 以上の事は常識に反していて、専門家には一笑に付されてしまうに違いない。もしどなたか興味を持って頂けたら、ご自分で呼吸を見ながらで試してみてください。

 リラックスは寛ぎであり、呼吸を解くことである。呼吸に障りが無い状態がリラックスである。エアポンプは空気圧の差を使って仕事をし、空気を止めてしまうと働けない。同じ様に呼吸力は滞らない呼吸(リラックス)にして初めて使うことが出来る。