姿勢を考える時、通常は、まず正しい姿勢とはどういうものかと考える。その後正しい姿勢を維持しながら身体の動きを稽古する。そこで順序を逆にして、動き易い姿勢とはどういうものかを探しそれを正しい姿勢と考えてみよう。
 踵に体重を載せて身体を動かしてみる。明らかに動き難い。次に、拇趾、母指球に身体を載せてみる。今度は動き易い。これで身体を載せる位置が分かった。
 腰はどうか。腰を前へ張り出して決めてみると身体が強張ってしまう。後ろに抜いてみると姿勢が定まらず素早い動きが取れない。腰は張らず楽に起こしていると身体を動かし易い。ここで腰と言うのは西洋のウェストではなくそれよりもう少し下、いわゆる肚の裏側である。仙骨を中心とした部分である。仙骨は身体を支える骨格の要で上に脊椎を支え、横に腸骨を広げて内臓を受け止めている。腸骨は下部に股関節があり、そこから大腿骨、膝、脛、足首、拇趾へと繋がっている。関節は遊びがあるから動ける。腰回りの関節を決めてしまうと身体は動き難くなってしまうのである。かといって緩みすぎて位置が定まらなくても動きが取れない。腰を楽に起こしその状態を保つのが腰の姿である。(仙骨を両横から留めるように想っていると良い。)
 上体については呼吸を主にして考えてみよう。どのような姿勢を取れば動く時に楽な呼吸が出来るかを見る。上体を屈めたり逆に突っ張ったりすれば呼吸は詰まる。要は鳩尾の扱いである。上体を屈めれば鳩尾は落ち突っ張れば鳩尾は上がる。どちらも楽な呼吸が出来ない。結局、腰と同じように上体を起こし、そのままの姿で鳩尾を緩めるのが良い。緩めると肩の力は抜けている。
 目付きも意外に大事である。目に力を入れると気付かぬうちに肩が上がり息を詰めてしまう。目の力は抜くようにしよう。

 以上をまとめると、拇趾、母指球に身体を載せるようにして立ち、腰を起こして鳩尾は緩める。楽に前を見る。これが正しい姿勢の要諦ということになった。腰は字のとうり身体の要でありここを正しく保つことが大事である。そのための一つのやり方は、仙骨の辺りを左右から留めていると想うことである。肉体的に筋肉を働かせて留めるというより、留めていると意識するのである。強く止めているのではなく、崩れず、しかも緩みがあるように保つのである。そうすると自(おの)ずから拇趾、母指球で立つようになっている。

 正しい姿勢は定規で測ったように決まるものではない。概形は変わらないが人夫々に骨格は違う。男女差もある。だから万人に厳密に適用される一つの規格というものはない。言えるのは要である。この要を維持しながら各人が自ら体感を通して自分の正しい姿勢を会得すべきであろう。

 * 関節は緩み、遊びがあるからこそ支障なく動ける。遊びを無くしてしまうと身動き出来ない。物事は遊びがあって初めて支障なく動いて行ける。